経済

再エネ大国の影で拡大する石油投資、ノルウェーの真意

ノルウェーの石油・ガス投資は今年これまでの最高水準に達した後、2025年にはさらに伸びると予想されている。2024年のノルウェーの石油・ガス投資増加には、新規プロジェクトの開発活動やインフレの影響が大きく寄与している。ノルウェーの統計局によると、2024年の石油・ガス投資総額は約229億ドルに達し、過去最高を記録する見通しだ。これまでの最高額は、原油価格が非常に高く、企業が新規の石油・ガスプロジェクトにまだ多額の支出を行っていた2014年の204億ドルであった。今回の投資増加は、新たな探査活動やパイプライン輸送、施設の閉鎖や撤去などを支援している。

この北欧の石油大国は、今後数年にわたって化石燃料への多額の投資を続けると見られている。ノルウェーで活動する石油・ガス企業各社は、2025年に推定246.8億ドルを投資する見込みだと、業界団体のオフショア・ノルゲ(Offshore Norge)が12月に発表した。同団体は、同国の石油・ガス生産のほぼ全量を占めるエクイノール(Equinor)、アーカー(Aker)、ヴォール・エネルギー(Vår Energi)、コノコフィリップス(ConocoPhillips)、シェル(Shell)など14社を調査対象とした。2025年にはノルウェー領海で45本の探査井を掘削する予定で、これは今年の41本から増加し、2019年以来の最高水準となる。

こうした新規探査プロジェクトの増加は、ロシアのウクライナ侵攻とロシア産石油に対する制裁に伴うノルウェー産天然ガスへの需要拡大を反映している。ノルウェーは西ヨーロッパ最大の石油・ガス生産国で、日量400万バレル超を生産しており、政府は今後数十年にわたり生産を拡大する方針を示している。

12月には、ヴォール・エネルギーとエクイノールが、バレンツ海の稼働中資産近くにあるセリサ(Cerisa)探査井で新たな油田を発見したと発表した。事業者らは、この油田が回収可能な石油換算で130万〜480万立方メートルの埋蔵量を有すると推定している。これは同地域での4回連続の発見となった。先に発見されたGjøa North(ヨア・ノース)やOfelia/Kyrre(オフェリア/キューレ)を含めると、既存のインフラを活用してヨア(Gjøa)油田に結びつける可能性がある。これらの総回収可能資源量は1億1000万BOE(石油換算バレル)に達する可能性がある。

またノルウェー領海の新たな探査活動に加え、エクイノールは12月、シェルと共同で英国の化石燃料資産を統合し、英国北海で最大の独立系石油・ガス生産会社を創設するという新たな50対50のジョイントベンチャー計画を発表した。両社は共同声明で、「英国の国内石油・ガス生産とエネルギー安全保障を維持するために役立つ」と述べ、さらに「かつては豊富だったこの油田地帯も成熟が進み、生産量は自然に減少している。両社の資産と専門知識を組み合わせることで、英国にとって重要なこの資源を引き続き経済的に回収できるようにする」としている。

ノルウェーは、いわゆる「低炭素」石油プロジェクトへの投資と大規模なグリーンエネルギーへの投資を通じて、石油・ガス拡大を正当化してきた。ノルウェーは、欧州のなかでは最大かつ最も排出量の少ない石油・ガスの供給国である。これは主に、豊富な水力発電を活用した国内の上流工程(探査・生産)の電化が要因である。ウッドマッケンジーの予測によると、2026年までにノルウェーの生産の60%以上が電化される見通しだ。

エネルギー市場インテリジェンスを提供するライスタッド(Rystad)のパルゾル・シェンガ氏とエリオット・バズビー氏による新たな調査によれば、化石燃料事業の電化によって、上流の石油・ガス排出量を大幅に削減できるという。調査では、再生可能エネルギーや本来ならフレア(焼却)される天然ガスを用いた電力を活用することで、上流工程で発生する排出量の80%以上を削減できると示している。

ライスタッドで上流調査部門の副社長を務めるシェンガ氏は「世界が気候変動という喫緊の課題に直面するなか、石油・ガス業界はカーボンフットプリントを最小化し、世界の持続可能性目標に沿った慣行を行うよう求められている。電化が可能で経済的に見合うのであれば、生産量を維持しながら業界の排出量を削減する大きな可能性を秘めている」と述べている。

ノルウェーは近年、再生可能エネルギーへの投資を強化している。国内の電力網はほぼ完全にグリーンエネルギーでまかなわれており、国外のプロジェクトにも資金を投じてきた。たとえば、2023年6月にはノルウェーの政府系ファンドが、英国の573MW規模の洋上風力発電所「レース・バンク(Race Bank)」の4億1800万ドル相当の株式を取得した。また、ノルウェーの政府系開発金融機関であるノルファンドは、EDFリニューアブルズ社が南アフリカで建設予定の合計420MW規模の風力発電所3基に対し、1990万ドルを投資すると発表している。

それでも、ノルウェーが気候変動対策で「ヒーロー」と言えるのか、それとも「炭素排出の悪役」とみなすべきかという疑問は尽きない。国際エネルギー機関(IEA)は、2050年までのネットゼロ達成シナリオを踏まえれば、新たな化石燃料の探査は適合しないと繰り返し警告しており、その意味ではノルウェーの石油・ガス投資はグリーン転換を目指すという公約と矛盾する面がある。脱炭素やカーボンオフセットに取り組んでいるとはいえ、ノルウェーは化石燃料への積極的投資を続けながら、同時に脱炭素やグリーントランジションに多額の資金を投入するという“両取り”を狙っているように見える。

まとめ

• ノルウェーの石油・ガス投資は記録的水準

2024年に約229億ドルと過去最高を更新し、2025年にはさらに拡大して約246.8億ドルに達する見込み。

• 新規探査井の増加と地政学的影響

2025年に45本の探査井を掘削予定で、ロシア制裁後に高まるノルウェー産ガス需要が背景。ノルウェーは欧州最大の石油・ガス生産国。

• 新油田の発見と石油企業の動き

ヴォール・エネルギーとエクイノールはバレンツ海のセリサ油田を含め、続々と新たな油田を発見。英国北海でもエクイノールとシェルが化石燃料資産を統合する計画を発表。

• 低炭素化と再生可能エネルギーへの投資

ノルウェーの上流工程を電化し、水力発電を活用することで生産の60%超を電化する見通し。国内電力網のほぼ全量を再生可能エネルギーでまかない、海外でも風力発電所に投資。

• 気候への影響と今後の課題

IEAはネットゼロ達成には新規の化石燃料探査は矛盾すると指摘。ノルウェーは石油・ガスから得られる収益と脱炭素支援の両立を目指しているが、気候変動の観点からは賛否が分かれる。

Norway Doubles Down On Oil And Gas

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